かゆみ、痛みについて

皮膚に生じる「かゆみ」や「痛み」は、見た目には目立たないこともありますが、生活の質(QOL)に大きく影響を与える症状です。
夜眠れないほどの強いかゆみや、日常動作のたびに生じる刺すような痛みは、体だけでなく心にもストレスを与えることがあります。
こうした皮膚症状は一時的なものから慢性的なものまでさまざまですが、多くは皮膚のバリア機能異常や炎症反応が関係しています。
皮膚科・形成外科では、目に見える皮膚の状態だけでなく、患者さまが感じている「感覚」とその背景にある原因を丁寧に見極めながら診療を行います。
かゆみや痛みを引き起こす代表的な疾患には、アレルギーや刺激による「湿疹・皮膚炎」、突然あらわれる「蕁麻疹」、季節や体質によって変化する「虫刺され」や「かぶれ」、強い痛みを伴う「帯状疱疹」、加齢や体質による「乾燥肌・敏感肌」などがあります。
症状の経過や広がり方、悪化のきっかけを正確に把握することで、適切な治療と再発予防が可能になります。
かゆみ、痛みを引き起こす疾患例
湿疹・皮膚炎
湿疹・皮膚炎は、かゆみや赤み、水ぶくれ、かさぶたなどを伴う皮膚の炎症性疾患です。
原因はさまざまで、外部からの刺激による「接触性皮膚炎」、体質的な要因が関与する「アトピー性皮膚炎」、乾燥に伴う「皮脂欠乏性湿疹」などがあります。
症状の強さや範囲は人によって異なりますが、かゆみは非常に強く、掻くことで皮膚がさらに傷つき、バリア機能が低下して、炎症が悪化する「かゆみの悪循環」に陥ることもあります。
治療はまず原因や誘因の特定が重要です。
炎症を抑えるためにステロイド外用薬や、非ステロイドの抗炎症薬を使用し、かゆみには抗ヒスタミン薬などを併用します。
乾燥や皮膚のバリア機能低下が関係している場合は、保湿剤によるスキンケアが不可欠です。
慢性化させないためには、適切な治療の継続と、生活環境の見直しが鍵となります。
蕁麻疹(じんましん)
蕁麻疹は、突然皮膚に赤みや盛り上がり(膨疹)があらわれ、強いかゆみやチクチクとした感じを伴う疾患です。
膨疹は2〜3mm程度の大きさのものもあれば、地図状に広がるものもあります。
数時間~24時間で消えるものが多い一方、毎日のように繰り返し出現するものもあります。
症状が1ヵ月以内に治まる場合は急性蕁麻疹、1ヵ月以上断続的に継続するものは慢性蕁麻疹とされます。
また蕁麻疹は、アナフィラキシーを伴う重篤なアレルギー反応の前兆である場合もあるため、注意が必要です。
アナフィラキシーは急激なアレルギー反応で、気管支や腸の粘膜にまで症状が広がり、呼吸困難を引き起こして命に関わることもあるため、早急に医療機関を受診する必要があります。
蕁麻疹が起こる仕組みは、まだよくわかっていませんが、皮膚に存在する「肥満細胞(マスト細胞)」と呼ばれる細胞から分泌されるヒスタミンが関わっていると考えられています。
様々な原因でマスト細胞からヒスタミンが分泌されると、ヒスタミンが知覚細胞を刺激し、蕁麻疹の症状が現れます。
刺激を引き起こすものとしては、アレルギー性のものと非アレルギー性のものがあります。
アレルギー性のものでは、食物や薬、花粉やハウスダストなどが挙げられます。
感染症によっても引き起こされることがあります(感染性蕁麻疹)。
また非アレルギー性のものとしては、寒冷や温熱などの物理的刺激、疲労やストレスなどがあります。
このほか、主に発汗時などにあらわれるコリン性蕁麻疹と呼ばれるものがあります。
蕁麻疹の治療の基本は、抗ヒスタミン薬の内服によるかゆみのコントロールです。
抗ヒスタミン薬で改善されない場合は、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)や抗ロイコトリエン薬などが補助的に用いられることもあります。
アナフィラキシーを引き起こしている場合は、アドレナリンの筋肉注射や、ステロイド薬の静脈注射が必要になります。
アレルギーなどの原因が特定できる場合は、それを避けることが最も有効な予防策となります。
症状が長引く場合には、継続的な内服や生活指導が行われます。
虫刺され・かぶれ
虫刺されは「虫刺症」とも呼ばれ、虫に刺されるなどした部分に赤みや腫れ、かゆみ、時に痛みが現れる皮膚疾患の一つです。
身近で原因となる虫としては、蚊、ダニ、ブヨ、ノミ、ハチ、毛虫などが挙げられます。
これらの虫の毒成分や唾液成分が、皮膚に入り込むことによって、刺激反応やアレルギー反応により、かゆみの症状が引き起こされます。
また痛みの症状に関しては、虫に刺されたり咬まれたりすることで起こるほか、虫が皮膚に注入する成分の刺激によって生じる場合もあります。
虫刺されのアレルギー反応には、「即時型反応」と「遅延型反応」があります。
即時型反応は、刺されてすぐに症状が出るのに対し、遅延型反応は、刺されてから1~2日後に症状が現れます。
即時型反応は赤みやかゆみ、蕁麻疹などが、遅延型反応ではブツブツや水ぶくれが現れます。
虫刺されは軽症の場合、多くは数時間程度で症状が軽くなります。
ただし虫刺されでは、全身症状が現れるケースもあるため、注意が必要です。
とくにハチに刺された場合、最初に刺されたときは軽く済むことが多いのですが、二度目以降に刺されたときに、ハチの毒に対するアレルギー反応で、アナフィラキシーを起こす危険があります。
近年では温暖化により、虫の活動時期が変化したり、セアカゴケグモなど以前は見られなかった虫がみられたりし、虫刺されのリスクも上昇しています。
虫に刺されて不安な場合は、お早めにご受診ください。
また、植物などに触って、かぶれを引き起こすこともあります。
かぶれとは接触性皮膚炎とも呼ばれ、植物以外にも金属やゴム製品、薬品などが皮膚に触れて引き起こされる場合があります。
かぶれを起こす植物として代表的なものにヤマウルシがありますが、ほかにプリムラオブコニカ(サクラソウ科)、ハゼノキ(ウルシ科)、さらに銀杏の実などがあります。
植物によるかぶれはアレルギー性の接触性皮膚炎で、主に遅延性アレルギー反応によって症状があらわれます。
強いかゆみを伴った皮膚炎が生じ、毒性や刺激が強い場合は、ただれてしまうこともあります。
このほか、植物のトゲや表皮の毛(刺毛)などによって起こる一次刺激性接触皮膚炎もあります。
虫刺されやかぶれは、予防することが重要で、虫除けスプレーの使用や長袖の着用、刺激物との接触を避けることが大切です。
治療には、ステロイド外用薬や、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬を使用します。
腫れや痛みが強い場合は、冷却や内服薬の併用も行われます。
帯状疱疹
帯状疱疹は、子供のころに罹った水痘(みずぼうそう)のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス/VZV)が体内に潜伏しており、それが加齢や疲労、ストレスなどで免疫力が低下した際に、再活性化して起こる病気です。
このウイルスはヘルペスウイルスの一種で、主に神経に棲息し、発症すると神経に沿って赤い発疹や水ぶくれが帯状に現れて、非常に強い痛みを伴いますが、痒いこともあります。
症状としては、初期にはピリピリするような違和感や痛みが先行し、数日後に発疹が出てきます。
主に体の左右どちらか片側に限局して出るのが特徴で、顔、胸、背中、腹部などに見られます。
重症化すると神経の損傷によって帯状疱疹が治った後も、後遺症として「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれる慢性的な痛みが残ることがあります。
帯状疱疹後神経痛は、顔や体幹部で発症することが多く、焼けつくような痛みや締め付けられるような痛みなどの症状が、長く続く場合があります。
神経に障害が生じることもあり、耳の近くの神経で発症すると聴覚障害を、目の付近で発症すると視力障害を起こすリスクがあります。
また顔面神経麻痺や、平衡感覚障害、味覚障害など様々な症状が出る場合もあります。
帯状疱疹の治療では、症状が現れたら、すぐにヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬を内服することが重要です。
理想としては、3日以内に内服を開始することで、それにより症状の軽減や後遺症リスクの低減につながります。
重症の場合は入院して点滴を行う場合もあります。
痛みが強い場合は、神経障害性疼痛治療薬や各種の鎮痛薬も併用します。
帯状疱疹は予防することが重要で、発症リスクの高まる50歳以上の方では、帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されています。
乾燥肌・敏感肌
乾燥肌という言葉をよく聞かれると思いますが、医学的には乾皮症とも皮脂欠乏症とも言われます。
これは主に皮膚を覆う皮脂が少なくなってしまうことで、皮膚が乾燥する疾患です。
乾燥肌は、様々な皮膚症状を引き起こす要因となるため、注意が必要です。
原因となるのは湿度低下や寒さで、秋から冬にかけて悪化することが多くなります。
またエアコンの使用で室内の空気が乾燥していたり、熱いお湯で入浴を繰り返していたり、洗浄力の強い石鹸やナイロンタオルの使用なども乾燥肌の原因となります。
このほかの要因としては、加齢によって皮膚の細胞間脂質が減少することが挙げられます。
またメイクのクレンジング剤なども、成分によっては肌を乾燥させます。
それによって皮膚のバリア機能が低下するとさらに乾燥が進むことになります。
乾燥が進むと角質層がポロポロと剥がれ落ち、ひび割れなどもみられるようになります。
また乾燥により、ちょっとした刺激にも反応しやすくなります。
かゆみやヒリヒリとした痛みを感じやすくなって、掻きむしったりしてしまうと、湿疹ができたり、小さな傷から細菌に感染したりすることもあります。
またそれにより、さらにバリア可能が低下するという悪循環に陥ります。
一方、敏感肌は医学的に正式な名称はないものの、主にちょっとした刺激でも、赤みやかゆみ、ピリピリとした痛みなどの症状が現れてしまう状態を指します。
紫外線や摩擦、乾燥などによって、皮膚表面の角質層に変化が生じることによるとされ、皮膚のバリア機能が低下しているサインとも言われています。
また、加齢やストレス、疲労、睡眠不足、食生活の乱れによる、皮膚のターンオーバーの乱れも影響していると考えられています。
乾燥肌や敏感肌の治療としては、基本的に肌を十分に保湿することと、生活習慣を改善することです。
保湿剤で皮膚を潤すことで、多くの場合治癒します。
湿疹がでている場合は、ステロイドなどの外用薬を用います。
また感染症を発症していいる場合は、抗菌薬を用います。
かゆみが強い場合は、掻きむしってしまうのを防ぐため、抗ヒスタミン薬の内服薬を用いることもあります。
日常生活では、規則正しい生活を心がけ、使用する石鹸やスキンケア製品は、自分にあったものを選ぶようにし、洗いすぎに注意するようにしましょう。
また、アトピー性皮膚炎や接触性皮膚炎などの疾患でも乾燥肌があることが多いため、注意が必要です。