爪のトラブルについて

爪は、指先を保護する役割を持つだけでなく、物をつかんだり、細かな動作を行ったりするために欠かせない存在です。
また、爪の状態は健康や栄養状態を反映することもあり、皮膚科・形成外科では多くの「爪のトラブル」に対応しています。
爪は硬く見えても、非常に繊細な構造でできており、日々の生活の中で多くの負担を受けています。
たとえば、よくみられるものとしては、爪が皮膚に食い込んで痛みや炎症を引き起こす「巻き爪」や「陥入爪」があります。
またカビによって爪が濁って厚くなる「爪白癬(爪の水虫)」、爪が根元から浮いてしまう「爪甲剥離症」といったものもあります。
さらに加齢や病気による爪の変形・異常、打撲や切創などの外傷性のトラブルもよく見られます。
これらの爪の疾患は、痛みや見た目の問題だけでなく、歩行障害や手の機能低下を招くこともあります。
また、自己処理を繰り返すことでの症状の悪化や、誤った判断で治療が遅れるケースも少なくありません。
当院では爪に関するお悩みにも対応していますので、お気軽にご相談ください。
爪のトラブル例
巻き爪・陥入爪
巻き爪は、爪の両端が内側に強く巻き込まれてしまう状態で、主に足の親指に多くみられます。
進行すると爪が皮膚に食い込み、痛みや腫れ、炎症を生じ、さらには化膿を伴う場合があります。
歩行時に強い痛みを生じ、靴を履くことさえ困難になることもあります。
原因には、窮屈な靴やハイヒールなどの履物による圧迫、深爪(爪の端の切り過ぎなど)、外反母趾、加齢、肥満、遺伝的な爪の形などが関係します。
また、スポーツや立ち仕事による負担も要因のひとつです。
治療は、軽度であれば、食い込んでいる爪の部分に綿花を食い込ませる「コットン固着充填法」や、サージカルテープで皮膚を引っ張り、食い込みを和らげる「テーピング法」などを行います。
化膿がある場合は、切開して排膿処置を行い、消炎鎮痛剤や抗菌薬を使用する場合があります。
重症例では、局所麻酔のもとで爪の一部を切除する部分抜爪や、さらに爪を切除した部分にフェノールという化学薬品を塗って部分的に爪が生えないようにする根治術を行うこともあります。
このほか、自費診療とはなりますが、専用の矯正具(ワイヤーやプレート)で爪の形を整える治療法もあります。
爪白癬(爪の水虫)
爪白癬は、白癬菌という真菌(カビ)の一種が爪に感染して起こる病気です。
足の水虫(足白癬)から波及することが多く、とくに高齢者や糖尿病のある方に多く見られます。
症状としては、あまり痛みやかゆみは感じませんが、放置すると爪が白く濁ったり、黄色く変色したり、厚くなってボロボロと崩れやすくなるなどの変化が見られます。
また、隣の爪や、身近な方に感染が広がる恐れもありますので、早めの治療をお勧めします。
なお、爪白癬と似た症状を呈するものとして、掌蹠膿疱症、厚硬爪甲、乾癬といったものがあります。
見た目だけでは爪白癬とは断定できない場合もあるため、診断には、爪の一部を採取しての顕微鏡検査や、真菌培養検査を行います。
爪白癬の治療には、他の内服薬や肝臓腎臓機能にもよりますが、抗真菌薬の内服がベストです。代表的なものとしてはホスラブコナゾールがあり、3ヵ月間、服用する必要があります。
副作用として肝機能障害の恐れがあるため、内服期間前と途中に血液検査を行います。
軽度の場合や、内服が出来ない場合は、抗真菌薬の外用薬を用います。
これにはエフィナコナゾールとルリコナゾールの2種類があり、6ヵ月~1年間の塗布が必要となります。
爪は生え変わるまでに時間がかかるため、根気強い治療継続が必要です。
爪甲剥離症
(そうこうはくりしょう)
一般に外に露出していて爪と言われているのは「爪甲」と呼ばれる部分で、ケラチンというたんぱく質でできており、指(趾)先を守り、微細な動きを補助する働きがあります。
この爪甲は「爪床」と呼ばれる部分の上に付着しています。
爪床とは皮膚の軟部組織で、薄いピンク色をしています。
通常、爪甲と爪床は強く密着しており剥がれることはありませんが、これが何らかの理由で剥がれてしまったのが「爪甲剥離症」です。
爪床から剥がれた部分の爪甲は、浮いて白く見えたり黄ばんで見えたりします。
また、爪床と爪甲の間にゴミやホコリが入って、内部が汚れて見えることもあります。
これを無理に取ろうとして棒状のものを差し込むと、爪床を痛めてしまうことかあるため注意しましょう。
爪甲剥離症は圧倒的に女性に多く、また手の爪でも足の爪でも起こりますが、手の爪に起こることが多いようです。
原因としては様々なものがあり、多岐にわたります。
皮膚疾患によるもの、全身疾患によるもの、さらに感染症や外部からの刺激によって引き起こされることもあります。
ただし、原因がよくわからない特発性のものも少なくありません。
ストレスや栄養不良も原因となる場合があると考えられています。
皮膚疾患の例としては、尋常性乾癬や掌蹠膿疱症などが原因となることがあります。
全身疾患の例としては、代表的なものとして甲状腺機障害があります。
ホルモンの影響で、爪が平たくなったり、反り返ったりすることで爪甲剥離症が発症します。このほか、貧血、糖尿病、肺がん、強皮症などでも発症することがあります。
また感染症の例としては、真菌の一種であるカンジダ症などが原因となる場合があります。
外部からの刺激の例としては、マニキュアや除光液、洗剤、有機溶剤、ガソリンなどの化学製品に触れることによって起こる、いわゆる接触皮膚炎や爪甲脱脂によるものがあります。
さらに爪と皮膚の間にとげのようなものが刺さるなどの外傷でも、引き起こされることがあります。
治療は、原因に応じた対処が中心となります。
皮膚疾患や全身疾患が原因の場合は、その疾患の治療をすることで、症状の改善をめざします。
また外部からの刺激による場合は、原因となる刺激を取り除くことが重要です。
このほか、原因がわからない特発性のものに関しては、ステロイドの塗り薬や保湿剤を使用して、経過を観察していきます。
爪の保護や清潔な環境を保つことが、再発予防につながります。
変形・異常
爪の変形には、巻き爪や陥入爪、爪白癬のほかにも、いくつかの種類があります。
たとえば、厚く盛り上がる「肥厚爪」というものがありますが、これには爪全体が厚く硬くなる「厚硬爪甲」と爪の下の角質が増殖して起こる「爪甲下角質増殖」があります。
また、「匙状爪(スプーンネイル)」は、中央がスプーンのようにへこむものです。
爪に縦の線が出る「爪甲縦条」や横に線が入る「爪甲横溝」というものもあります。
さらに爪に縦状の割れ目が入り、裂けてしまう「爪甲縦裂症」や、爪が発育不全の状態を示し、小さくなって剥がれ落ちてしまう「爪甲萎縮症」となど、さまざまなパターンがみられます。
こうした異常は、加齢や乾燥、外傷、栄養不足、合わない靴による慢性的な刺激、乾癬や湿疹といった皮膚病などによって引き起こされると考えられています。
中には心配のあまりいらないものもありますが、進行すると生活の質を大きく落としてしまう場合も少なくありませんので、お早めに当院をご受診ください。
このほか、爪の変形は、糖尿病などの内科的疾患の一症状として現れることがあります。
また、爪の色の変化(黒色、黄色、緑色など)も異常のサインです。
とくに爪に黒い線などが現れた場合、悪性腫瘍(爪のメラノーマ)という重篤な疾患であることもありますので、注意が必要です。
治療はまず原因の特定が重要で、必要に応じて爪基部の皮膚生検、血液検査、画像検査などを行うこともあります。
症状に応じた各種の外用薬(塗り薬)および内服薬(飲み薬)による薬物療法や生活指導を行い、見た目の改善も含めたケアを行います。
栄養不足にならないようにし、爪の保湿を行うことも予防や改善には重要です。
変形が高度で日常生活に支障をきたす場合は、外科的な処置を検討することもあります。
また内科疾患などが原因と考えられるときは、適宜内科専門医をご紹介します。
外傷や炎症
手先や足先にある爪は、生活や仕事の場でケガをしやすかったり、感染しやすかったりします。
爪は外部からの衝撃に弱く、打撲や挟み込みなどによって、爪のはがれや裂け目、内出血を生じます。
また、爪周囲の炎症としては、「爪囲炎」や「ひょう疽」と呼ばれるものがあります。
爪囲炎は爪の周辺に細菌や真菌が感染して起こる場合や、薬剤によって起こることもあります。
症状が悪化すると、爪の下などに膿が溜まり、黄色っぽく見えたり、強い痛みを引き起こしたりします。
「ひょう疽」は、やはり感染が原因となるもので、爪囲炎がさらに悪化した状態と言えます。
ささくれや巻き爪から細菌などが侵入して膿がたまり、指の腹側にも膿がたまって、より強い痛みが現れます。
これらは放置すると爪の変形や、爪母(爪をつくる組織)へのダメージを引き起こす可能性があります。
指先の機能を守るためにも、軽微な外傷でも早めに診察を受けることをお勧めします。
治療には、抗生剤の投与、場合によっては排膿処置が必要になります。
爪がはがれてしまった場合でも、爪母が無事であれば再生は可能ですが、経過観察や爪の保護が必要です。
また、マニキュアや除光液の使用や甘皮の除去などを頻繁に行うと、爪周囲の皮膚のバリア機能が低下して感染のリスクが高まるため、注意が必要です。